Voices|江面 美祐紀さん

医療を提供する側と受け取る側が、尊敬しあえる未来へ

Profile

江面 美祐紀(えづら みゆき)

2009年 慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科 医療マネジメント専修 修了
ファイザー株式会社 経営政策管理本部 医療政策部 慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科 非常勤講師
【医療マネジメント専修】

経済性を抜きに、医療は語れなくなる

私は、医療・製薬業界に身を置く中で、「医療経済」という分野に興味を持ちました。医療はこれから、経済性を抜きに語ることができなくなるだろうと感じたからです。また、医療の経済性と個人の健康マネジメントは表裏一体だと思っていたこともあり、医薬経済や医療経済について深く学ぶことができる健康マネジメント研究科(以下「健マネ」)への入学を決めました。当時は勤務先のファイザー株式会社のコンシューマーヘルスケア事業部で、禁煙補助薬の臨床開発や薬価算定を担当していたので、入学後は、禁煙/喫煙、禁煙補助薬の経済評価研究に取り組みました。

研究で広がる視点、仲間が広げてくれる世界

健マネでの研究を通して、「人口構造の変化と経済政策」、「政府と公共政策の関係」など、これまでの学びや仕事における専門性とは異なる視点で物事をとらえる知識を身につけられたと思います。また、分析手法については、単なる手法として学ぶだけではなく、問題解決の手段として修得することができました。

先輩や後輩、同級生の研究内容から、自分一人では着目できないようなさまざまな視点や問題意識に触れ、世界を広げられたことも成果の一つです。たとえば、米国の診療システムや病院の株式制度などは、私が健マネを修了して数年たってから政策の場で議論されるようになりました。それらの潜在的な問題点は仲間の研究を通してすでに知っていたので、その知識をベースに議論を考察することができました。

忘れられない思い出としては、修士論文の作成過程で何度か訪れた発表の機会が挙げられます。発表の際には、先生方や院生たちと議論をするのですが、当時は逃げ出したくなるくらい追い込まれた気持ちになったこともありました。そのような経験が、答えようがないと思われるような質疑にも、答えを考えて回答するという訓練になっていたのだと、今では感謝しています。

法案につながると、やりがいは倍増

修了後は、健マネで作り、増やした健康・医療・分析・提案・実学といった知識の引き出しを最大限に活用したいと考え、社内で医療政策部に異動しました。現在は、さまざまな政策や禁煙アドボカシーに携わっているほか、幅広く業界活動をしています。"禁煙"や"アレルギー"、"女性の健康"についての重要性を訴求する中で、その内容が法案につながっていくと、やりがいは倍増します。また、会社での業務の一方で、健マネの非常勤講師として、「製薬産業論」というインターンシップ科目を担当させていただいています。

日本の医療制度に、製薬産業ができること

修士論文のテーマであった「費用対効果分析」は、2012年より中央社会保険医療協議会(中医協)でその政策活用が議論されています。私は、議論が始まって以来ほぼ専任で、社内外へ向けたその対策を練っています。2016年には米国へのセコンドメント(短期赴任)の機会を与えていただき、海外での費用対効果分析の政策活用について学ぶこともできました。いずれも、健マネでの研究がベースとなっています。

今後は、まず2018年度の費用対効果評価の制度化に対し何らかの影響を与えること、そして、その新制度に対応できる社内体制を構築することが第一の目標です。将来のビジョンとしては、日本の医療制度の中で、医療を提供する側と受け取る側がお互いを尊敬し、ともに納得できる医療活動を実現できるよう、製薬産業の立場から制度設計に関与していきたいと考えています。

バックグラウンドを問わず、誰でもチャレンジできる場所

医療に特化することなく、幅広い視点で"健康"を議論する、その議論のためにデータを作成する、というプロセスを徹底して積み重ねる健マネの学びは、修了後の大きな強みになると思います。また、さまざまなバックグラウンドを持った方々が議論に参加することも魅力で、そこでは思わぬヒントを得ることが数多くあります。健マネは、"健康"に興味のある人であれば、バックグラウンドを問わず、誰でもチャレンジできる場所です。社会に出てからの軌道修正を、サポートしてくれる場所でもあります。あなたの興味を入口に、"健康"への視野を広げ、社会貢献につなげてください。