Voices|川村 崇郎さん

その人が「どう生きたいか」を尊重した看護を目指したい

Profile

川村 崇郎(かわむら たかお)

慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科看護学専修 修士課程在籍
【看護学専修】

祖母との同居から得たもの

看護師を目指そうと思うようになったのは、中学・高校時代の祖母との同居がきっかけでした。祖母は長年、糖尿病をはじめ、様々な生活習慣病を患っていたのですが、人工透析を受けることになり、それまで長年暮らしていた自宅を離れて、病院に近い我が家で同居するようになりました。母方の祖母との同居だったのですが、父は毎朝、祖母の血糖値を測るなど非常に献身的で、母はそんな父に感謝していました。自分や兄弟もおばあちゃん子だったので同居を心から喜んでいました。そういう点では、祖母との同居は、家族の協力体制を確認するいい機会でした。

祖母の入院や通院を通して、看護師のイメージが大きく変わりました。それまでは、看護師は医師からの指示下で動くというイメージだったのですが、実際には、看護の仕事にプライドをもって、誰よりも祖母を理解しよう、支えようと深く関わっているように感じました。そのような姿を見て、自然と看護師を目指すようになりました。

今でも思い出す、祖母の最期の言葉

入退院を繰り返していた祖母が亡くなる前日に、病院で自分たち兄弟にかけた言葉を、今でも思い出すことがあります。いつもは面会の別れ際に、「またね」とあっさり手を振る祖母が、その日に限って「絶対、元気になって帰るからね」と強い口調で言ったんです。「祖母にしては、珍しいことを言うな」と思いながら帰宅したところ、次の日の朝早く病院から連絡があり、祖母が亡くなったことを知らされました。祖母の死は悲しかったですが、祖母と生活を共にした経験によって、高齢者の療養を支える看護師になりたいという思いは一層強くなったと思います。

臨床を経験した後、大学院へ

大学を卒業してからしばらくの間、慶應義塾大学病院で働いていました。配属先は内科系混合病棟やGICUなどで、その後、訪問看護にも携わりました。6年間働いたところで、健康マネジメント研究科の看護学専修に入学して、現在、修士課程の2年目になります。今は、Ⅱ型糖尿病を患っている高齢者に対して看護師が教育的支援をする際、どのように教育の方向性を決定するのかを明らかにする研究をしています。

最近よく思うのは、患者さんにとって、「治療ありき」の考え方でいいのかということです。治療的側面を見るのは、医療者として大事なところではありますが、患者さんの治療のみならず生活にも大きく関わる看護師だからこそ、その人が「どう生きたいか」に焦点を当てるべきではないかと思うようになりました。これには、長年、透析で苦しい思いをしていた祖母を身近に見てきた経験も、大きく関与していると思います。

実習指導を通して後輩に伝えたいこと

最近何年かは、学部生の実習指導に関わっているのですが、その中で気になっていることがあります。実習生の中には、高齢者を前に戸惑った様子を見せる学生も多いことです。それは本人たちが良くないということではなく、彼らの育ってきた環境によるところが大きいと思います。実習指導では、認知症ケアでは有名な"ユマニチュード"という、メソッドを元に指導しています。学生が、高齢者の方々を一人の尊重すべき存在だと気づいて接することができるように関わるようにしています。

これからますます高齢化が進んでいく日本の状況を考えると、高齢者と若い人を繋ぐ環境を、もっと作っていかなければと実感しています。

学びの多い「健マネ」での2年間

健マネで過ごす時間は、非常に学びの多い期間だと思います。臨床で働いていた時に常識的に思っていたことが、いい意味で覆されることが何度もありました。先生方からアドバイスをいただいたり、様々な年代や分野の人たちと話したりする中で、自分が当然と考えていたことは当然ではないということに気づかされました。また、その気づきを周りにいる人たちと共有できたことは、本当に素晴らしい体験でした。様々なバックグラウンドをもつ人たちのそれぞれの価値観に気づき、柔軟に他者の価値観を認めることができるようになってきたと思います。そう思う一方、真の研究者になるためには、折れてはいけないこともあることを学びました。時には誰になんと言われようと自分の信念を貫かなければならない場合がある、その強さが研究者には備わってなければならないとも知りました。あとは研究に協力してもらった人たちに常に誠実であること。そのためには、データに誠実に向き合い、常に自分の能力を磨いていく必要を感じています。健マネでの学びを大切に、将来は看護研究や看護教育に携わっていきたいと思います。

インタビュー2016年2月実施。