Voices|梅本 美佳 さん

「私の看護の原点である先生の見ている景色を見てみたい」
看護師たちの道しるべとなる専門看護師を目指して

Profile

梅本 美佳(うめもと みか)

2005年看護医療学部卒業、看護師・保健師免許取得。
大学病院勤務後、日本赤十字社助産師学校で助産師免許取得。
神奈川県内の総合病院で助産師、看護師として勤務する。
2023年健康マネジメント研究科看護学専攻精神看護分野CNSプログラム入学
【看護学】

「私の看護の原点である先生の見ている景色を見てみたい」入学への決意

私が大学院への進学を決意した一番の理由は、20年前に卒業論文でご指導いただいた先生のもとで、もう一度学びたいという思いでした。先生は、専門看護師制度の初期から育成に関わり、看護の発展を牽引してこられた方です。その先生が今見ておられる景色を、自分の目でも一度見てみたいと思っていました。ただ、そう思いながらも長い間その一歩を踏み出せずにいたのは、「私なんかが大学院で学ぶなんて」と感じる自信のなさと、生活や子育てを優先した日々があったからです。看護師として非常勤で働きながら、仕事と家庭の両立に向き合う中で、自分の生活を選んだこと自体に後悔はありませんでしたが、ずっと心のどこかで「いつかは」と思い続けていました。

臨床に長く携わる中で、身体のケアにはある程度自信を持てるようになってきた一方で、患者さんの「心」に向き合う場面ではいつも立ち止まることが多かったです。慢性的な人手不足と社会や医療の変化で複雑になる業務に日々追われ、「このままでは看護が楽しくなくなるかもしれない」と感じ始めていました。

そして、今の仕事を続けていくために、学ばなければならないという思いが湧きました。また、私の看護の原点である先生の見ている景色を、見てみたいと思うようにもなりました。そんな気持ちがようやく自分の中で揃い、進学を決意しました。友人の40歳を越えてやりたいことがあることは羨ましいという言葉もとても背中を押してくれましたし、子育てが落ち着いてきて自分の時間を持てるタイミングもあったように感じています。

入学して気づく臨床経験での学び

私の研究テーマは、糖尿病看護における精神的ケアについてのスコーピングレビューです。糖尿病の看護において、患者の精神面を支えることは重要だとされてはいるものの、実際には「どのように支えるのか」が具体的に語られる場面は少なく、また臨床現場では忙しさのなかで後回しにされがちだと感じてきました。

私は、これまでの臨床経験の中で、糖尿病という慢性疾患を抱える患者さんが、病気であること、生活を変え続けなければならないこと、そして休むことなく治療が続く現実のなかで、精神的に大きな負担を抱えている姿をたくさん見てきました。

また、精神疾患を抱える患者さんでは、意欲の低下や行動の困難さなどから、糖尿病の治療がうまくいかず、双方の状態が悪循環を起こすケースにも多く直面しました。こうした中で、慢性疾患を抱える人の精神的ケアを考えたいと思い、ケアの実態と効果を明らかにすることで、臨床に還元できる知見を得たいと考えるようになりました。

入学して印象的だったのは、これまで臨床で当たり前に行っていたケアや関わりの中に、実はとても深い意味や価値があると気づけたことです。理論を学びながら自分の実践を振り返ることで、臨床経験そのものが貴重な学びの源であると感じました。

健マネで出会える新たな知

この大学院の魅力は、看護学専攻にとどまらず、他の医療・福祉分野など、多様な専門性を持つ学生たちが共に学んでいることです。とくに公衆衛生分野には、医療職以外のバックグラウンドを持つ学生もいるため、視野が大きく広がります。

私は、看護以外の分野の授業も積極的に履修してきました。看護ではどうしても「1対1の関係性」に重きを置く場面が多いですが、行動科学や社会構造からの視点を得ることで、患者さんや看護を取り巻く背景や社会全体とのつながりを、より多角的に考えるようになりました。

また、学生のバックグラウンドが本当に多彩なので、どの授業でも誰かの発言が新鮮に響き、「そんな見方があるのか」と学びの刺激になります。学生だけでなく、先生方も様々な専門の先生がいるため、学べる幅がとても広いです。自分の専門にとどまらず、さまざまな知と出会える環境が、この大学院の大きな魅力だと感じています。

大学院で学ぶという選択肢

進路を考えたとき、まず根底にあったのは、大学時代の先生のもとで、もう一度学び直したいという思いでした。先生が歩んでこられた道、そして今見ておられる景色に、学生として触れてみたいという気持ちは、長年心の中にあり続けていました。

また、現在の職場で一緒に働く専門看護師の姿にも大きな影響を受けました。専門的な知識と高い実践力を持ちながら、患者さんだけでなくスタッフにも寄り添い、現場に光を届けるような存在に、自分もなりたいと思うようになりました。日々の臨床の中で、専門看護師が果たしている役割の重要さを実感し、自分もこの現場で、患者さんとスタッフの両方に貢献できる力をつけたいと考えたことが、進学を後押ししました。

さらに、個人のキャリアだけでなく、日本の看護界全体を見たときに、臨床と研究をつなぐ力を持った看護師がもっと増えることが必要だと感じています。医療や社会が急速に変化する今、現場に根ざしながらも広い視野を持ち、変化に応じて成長していける看護師が求められています。

私は今いる臨床の場で、大学院で学ぶという選択肢もあることを、自然な形で後輩たちに伝えられるような存在でありたいと思っています。そして、それぞれの看護師がなりたい自分に合わせて選択できるようになってほしいと思っています。大学院で学ぶ看護師が少しでも増えることで、看護の現場全体がより豊かになっていけばいいなと願っています。

看護師たちの道しるべとなる専門看護師を目指して

現在の目標は、現場で働くスタッフの疲労や迷いに寄り添いながら、看護の持つ力を再認識できるような支援をすることです。患者さんと自然に挨拶を交わせるような、あたたかく丁寧な関係性が当たり前に築かれている――そんな現場の当たり前のすばらしさに光を当て、スタッフ自身がその価値に気づけるような働きかけをしていきたいと考えています。

また、精神看護を学ぶ中で、心の回復や癒しには時間がかかること、そして現在のスピードの速い医療の中では、身体の治療が先行し、心の回復が追いつかないままになってしまうことがあると知りました。その「時間のずれ」に気づける看護師でありたいと思います。患者の心に寄り添い、時に伴走者としてそばに寄り添い、時に代弁者として医療者に伝えることで、心と身体の間にある見えないギャップを埋める橋渡しのような存在になりたいと思っています。

将来的には、専門看護師として、高度な実践力を土台に、教育や研究の視点も活かしながら、現場の看護の力を高めていける存在を目指しています。日々奮闘する看護師たちにとって道しるべとなり、看護として何ができるかをともに問い続ける存在として、よりよい医療と看護の実現に貢献したいと考えています。

健康マネジメント研究科への入学を検討している方へ

私は子育てが落ち着いたと言うものの上の子は高校受験を控え、下の子はまだ保育園という状況でした。先生方もその事情を理解してくださり、オンライン授業への対応や「無理しなくていいよ」と声をかけてくださるなど、柔軟なサポートがありました。子どもを育てながらでも、安心して学び続けられる環境だと思います。

大学院で学んで一番大きかったのは、視野が広がったことです。これまで自分が行ってきた看護を振り返り、違う角度から見つめ直すことで、普段の仕事では見えなかったことにも気づけるようになりました。日々の臨床経験が、実はすごく大事な学びだったんだと、改めて感じることができました。

研究活動では、先生方が本当に豊富な経験をもとに、的確なアドバイスをたくさんくださいました。もし進学を迷っている方がいたら、今まで頑張ってきた自分を信じて、一度チャレンジしてみるのもいいと思います。勉強を始めることで、これまでの経験の見え方も変わって、また新しい楽しさに出会えるかもしれません。