Voices|吉田 裕美さん

研究の成果を活かし、働く世代の健康増進に貢献したい

Profile

吉田裕美(よしだ ひろみ)
【公衆衛生学】

健康マネジメント研究科看護学専攻研究生
2023年健康マネジメント研究科修士課程卒業(公衆衛生スポーツ健康科学専攻)

産業保健師として働く中で進学を決意

 手に職をつけたいという単純な理由から、大学は看護学科に進み、卒業後は一人前の看護師として技術を身につけるために総合病院に就職しました。
 看護師として働く中で、「忙しくて会社の健康診断を受けられなかった」「仕事の繁忙期で精密検査に来られなかった」などの理由で、病気の発見が遅れてしまった患者様にたくさん出会いました。「あの時に、健康診断や検査を受けておけばよかった」という後悔を抱えながら治療する患者様を少しでも減らしたいとの思いが強くなり、転職して産業保健師として企業で従業員の健康増進のお手伝いをする道を選びました。
 産業保健師として働く中で気を付けていたことは、健康面談を受ける従業員に対して健康の押し売りになってはいけないということでした。健康はそれ自体が最優先の価値ではなく、健康の上に個人の仕事などにおける自己実現や幸福な家庭生活などがあります。従業員個人の自己実現や家庭生活をないがしろにして「健康であることが重要」ということだけを伝えても、そのメッセージは必ずしも従業員の心に響きません。従業員個人の生活や個性を大切にしながら健康に過ごすための効果的なアドバイスをする方法論などを学びたいと考えるようになりました。また、当時後輩の保健師の教育・指導に関わっていたこともあり、健康指導に関する知識やノウハウをどのように他の保健師と共有していけるか、また産業保健の現場をどのように組織的かつ効果的に運用していけるか、なども産業保健における課題の一つではないかと考えるようになりました。
 これらの課題について答えを出すためには、産業保健の現場だけではなく学術的な方面からも体系的に学ぶことが重要であると考え、健康マネジメント研究科への進学を決めました。

研究は一人ではできない、現場の経験や思いを形にする作業

 産業保健師としての経験を活かして、修士論文では保健師が何度も指導を行っても生活習慣が改善しない対象者(リピーター)に対して、どのようなアプローチが効果的かを明らかにしたいと考え、「繰り返し特定保健指導を受けるリピーターに対しての保健師の効果的な支援技術」について研究しました。
 リピーターに対する特定保健指導における効果的な支援技術ついては、まだ研究がほとんどされていない分野であって、研究の方法論も確立しているとは言えない状況でしたが、私は現職の産業保健師の皆さんに研究協力者になっていただき、産業保健の現場で実際に行われている支援技術や成功事例についてインタビューし、その内容を分析する質的記述的研究という研究手法を選びました。
 研究を進めるうえで苦労した点は、リピーターに対する特定保健指導について成功した事例を探すことでした。以前からお世話になっている栄養学習研究会ピアの会の方々や、特定保健指導に関する研究会の事務局の方、看護医療学部のOBの方など様々な方にご協力いただき、研究協力者を集めることができました。また、インタビューで事例やその時の支援技術について語っていただいた際には、現場では保健指導がそれぞれに工夫を凝らしていることを知り、この素晴らしい技術を形にしたいとの思いが強まりました。研究は一人ではできない、現場で働く方の経験や思いを形にする作業なのだと改めて感じた瞬間でした。

様々なバックグラウンドを持つ学生と共に学ぶ

 健康マネジメント研究科の魅力は、様々なバックグラウンドを持つ学生が共に学び、意見交換ができることだと思います。例えば、高額医薬品の薬価引き下げをテーマに議論した際には、企業や健康保険組合の立場、製薬会社の立場、患者の立場、政策をつくる側の立場など、授業の場に実際の様々な立場を経験してきた学生がいるため、自然と多角的な視野で物事を見ることができ、その上で自分の置かれている立場での意見をまとめ上げることができました。
 看護学・医療マネジメント学・公衆衛生学・スポーツマネジメント学の学生が一堂に会して学べるのも魅力だと思います。私は公衆衛生学プログラム所属でしたが、自身のバックグラウンドである保健師についての学びを深めたいと思い、看護学の授業も履修しました。これをきっかけに、履修した科目の担当教員であった田口敦子先生の公衆衛生・地域看護ゼミにも参加するようになり、研究スキルをより向上させることができました。

現場経験・研究成果を活かし、働く世代の健康増進に貢献したい

 産業保健師などの予防医療に関する専門家は、多様な工夫を施しながら健康増進や疾病予防に取り組んでおり、実践の場で効果を出している事例が沢山あります。しかし、その成果が学会や学術誌等で発表される事なく現場で埋もれていたり、効果的な手法を実践できるスキルやフィールドがあっても、実践されていない可能性があります。
 修了後、勤務先を退職し、研究生として研究を続けることにしました。将来は、第一線で活躍する産業保健師による保健指導法と研究の知見を相互に連携・共有するための仕組みづくりや、現場経験と研究成果を活かした産業保健師育成に携わることで、働く世代の方々の健康増進のお役に立ちたいと考えています。

健康マネジメント研究科への入学を検討している方へ

 世界保健機関(WHO)は、健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが 満たされた状態にあることとしています。COVID-19の感染予防やワクチン接種等をみても、病気にならないことを求める・与えられるフェーズから、自らが情報を解釈し、健康というものを選ぶ時代になってきていると言えます。インターネット上で膨大な情報が飛び交う現代社会においては、玉石混交の情報から正しいものを見極めることに加えて、何を大切にしてどのような生き方をしたいのか、主体的に判断する価値基準を身につけることが求められます。
 健康マネジメント研究科は、年齢や背景に捉われず、お互いに尊重しあうことを基本としています。視野を広げて多面的・多層的に健康について考えることは、飛躍への一歩に繋がると思います。

(インタビュー2023年4月)