Voices|加藤 梨里さん

どんなバックグラウンドでも、「健康」へのアプローチは可能

Profile

加藤 梨里(かとう りり)

慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科特任助教
2011年慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科スポーツマネジメント専修修了
【スポーツマネジメント専修】【公衆衛生プログラム】

保険会社時代に出逢った「健康」というテーマ

大学時代にはファイナンシャル・プランナーを目指し、資格を取得しました。卒業後は資格を活かせる保険会社に就職して、営業の仕事をしていました。一見、健康とは全く異なる分野に見えますが、思えば、それが「健康」というテーマに出逢った始まりでした。生命保険は、万が一病気やけがをしたときに生活の保障となるお金を確保する手段です。ですが、生命保険について検討することは、改めて自分の健康状態や、家族歴といった病気のリスクを確認するタイミングになります。お客様と接する中で、1人1人が自分の健康を通して、将来のこと、家族のこと、そして生活に関わるお金のことに不安を抱いていると感じました。当時はまだ大学院に進学することは考えていませんでしたが、健康マネジメント研究科(以下、「健マネ」)に至る原点がそこにあったように思います。

大学院に進学しようと決心したのは、その後銀行に転職したころです。銀行ではお客様対応ではなくバックオフィスの業務をしていましたが、海外との取引もあったため時差に合わせて深夜まで働くこともあり、仕事はかなりハードでした。自分だけでなく、周りの同僚や先輩も、目先の仕事に精一杯で、将来のことを考える余裕のない人が多い印象がありました。社会のために仕事をしつつも、自分自身が心身ともに豊かで健やかに暮らしていくにはどうすればよいのか? また、豊かなライフスタイルを人々に提案していくことはできないか? そんな問題意識を抱いていたころ、健マネの存在を知りました。ちょうど願書の受付期間中でもあり、迷わず受験することに決めました。

大学院では、食事の選択と購入について研究

金融機関での勤務経験や資格での知識を生かし、修士論文のテーマは、「大学学生食堂における食事の選択と購入に関する研究」としました。調査を行った日吉キャンパスの学生食堂(学食)では、食事を購入するとレシートに、金額とともにその食事に含まれる栄養素についても表示されています。約1,000人の学生から学食のレシートを集めてデータを解析しました。その結果、学食を利用する学生の食事は野菜が少なく、炭水化物・脂質が多い傾向にあることがわかりました。学生に限らないと思いますが、もっと自分の健康に関心を持ち、そのために必要なお金を適切に使う意識をもってもらうために、健康やお金に関する教育が必要だと実感しました。

健康についての視点を持ったファイナンシャル・プランナーに

健マネ入学にあたって、それまで勤めていた会社を退職し、フリーランスとしてファイナンシャル・プランナーの仕事を始めていました。卒業後はその仕事を増やすなどしていましたが、しばらくは研究から遠ざかっていた時期がありました。しかし、修士課程の2年間ではやりきれなかった課題も多く、いつかまた研究のフィールドに戻りたいと思い続けていました。そんな折に、大学院時代の恩師である小熊祐子先生が新しい研究プロジェクトを始めることになり、大学院に戻る機会を得ました。現在は主に「ふじさわプラス・テン」の活動に携わっています。

現在関わっている「ふじさわプラス・テン」のプロジェクトでは、元気なうちから少しでも身体を動かすことで、将来の認知症や介護のリスクを抑えることを目指しています。これは、身体の健康管理を通して、医療費や介護費の支出を抑え、老後の生活を豊かにすることにもつながります。逆に、お金のことを考えるときにも、健康や人生のことを抜きには語れません。思い描く生活を実現するには、先立つお金が必要ですし、その資本となる健康な身体が不可欠です。家を買いたい、旅行に行きたいといったビジョンを描いていても、万が一、病気になったら、それよりも医療費を優先しなければなりません。健康を管理することは、お金を管理するのと同じくらい大事なことです。健康増進に関わる研究を続けながら、そんな視点を持ったファイナンシャル・プランナーを目指しています。

健マネの特徴は、あらゆる人材を受け容れる懐の深さ

私にとって、健マネで得た一番の財産は「仲間」です。同窓生や現役の学生には、医療系、文系、理系とさまざまなバックグラウンドのある人がいます。それぞれに全く異なる専門性や知見がありますが、誰もが、社会に対して何らかの問題意識を持ち、「人々を健康にしたい」という強い志を同じくしています。健マネで、その同志たちとアカデミックな議論をできたことは、私の見聞を10倍も100倍も広くしてくれました。また、健マネでの学びを活かして、より高度な研究やヘルスケア関連のビジネスに携わっている先輩方もいます。具体的にアクションを起こしている人を間近で見られることも、大きなモチベーションになります。

健マネの大きな特徴は、健康への志があれば、あらゆるフィールドの人材を広く受け容れる懐の深さです。私は健マネに入学するまでは、健康や医学に関する知識はほとんどありませんでした。しかし、それまでのバックグラウンドを活かしながら健マネで学べたおかげで、「健康とお金」という自分なりのアプローチを踏み出すことができました。

仕事を通して社会を健やかにしていく。そんな志を持った仲間が、またこれからも増えていくのを心待ちにしています。