Voices|飯田 健次さん

健康マネジメント研究科で第二の人生のテーマを見つける

Profile

飯田 健次(いいだ けんじ)

慶應義塾大学大SFC研究所上席所員
NPO法人日本健康太極拳協会師範
2008年、慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科修士課程修了
2014年、同研究科後期博士課程修了(博士(健康マネジメント学))
【スポーツマネジメント専修】

定年退職後に大学院に入学

私は、ヤマハ(株)に入社してから定年退職するまでの約29年間、海外駐在員としてパナマ、ドイツ、イギリス、フランス、アメリカの5ヵ国で過ごしました。在職中は日々の仕事に邁進し、健康のことなど気にかけていませんでしたが、最後の赴任地となるアメリカで太極拳に出合い、運動や健康を意識するようになりました。定年を間近に控え、「運動と健康の関係」を研究したいという思いが強くなり、大学院進学を考えるようになりました。

健康マネジメント研究科は、インターネットの検索で知りました。入学試験に合わせて一時帰国し、合格を確認すると、一週間程度の短い滞在期間のうちに住居探しまで済ませました。アメリカに戻ってからも、自宅の処分やら引越しの準備やらで、慌ただしい日々を送りました。今となっては、懐かしい思い出です。

研究テーマは「太極拳の健康効果」

大学院に入学する頃には、太極拳歴は8年になっていました。太極拳が「健康」への意識を目覚めさせ、「運動と健康の関係」について研究するために大学院に入学したのですが、当初は太極拳と研究を結びつけて考えてはいませんでした。「太極拳は健康に良さそうだ」くらいの認識だったので、欧米を中心に太極拳に関する多くの研究論文が発表されていることを故大西祥平先生からうかがった時には、驚きました。そこで、研究テーマを「太極拳の健康効果」に定め、先行研究を読み漁りました。同時に、ゼミにも積極的に参加しました。私の指導教員は小熊祐子先生だったのですが、小熊ゼミにとどまらず、大西ゼミや医療マネジメント専修の高橋ゼミ(高橋武則先生によるデータ解析を中心としたゼミ)にも毎回のように出席しました。こうして、検証すべき研究仮説が少しずつ具体化していきました。

足で稼いだデータ

帰国後はNPO法人日本健康太極拳協会に所属していたことから、仮説を検証するためのデータ収集には、地元の武相支部の協力を仰ぎました。同支部理事会に研究協力を依頼し、傘下の教室参加者を対象に質問紙調査、脳波測定、体力測定を行いました。測定機器が必要な脳波測定と体力測定では対象者数は限られてしまうのですが、質問紙調査ではできるだけ多くのデータ収集を目指しました。この時はヤマハでの経験が役に立ちました。各教室の責任者に質問紙を郵送して後日返送してもらえば簡単なのですが、在職中に先輩から「営業は現場にあり」と教えられてきたこともあり、研究も同じだと考え、教室を一つずつ訪問して研究の意図を説明し、その場で質問紙に回答してもらう方法を取りました。最終的に650件を超えるデータを集めることができましたが、それ以上に、それぞれの教室の様子を直接目にすることができ、多くの方々と知り合う機会に恵まれたことが大きな収穫でした。

このように、多くの方の協力のもと、2008年に修士号を、2014年には博士号の学位を授与していただけました。修士課程、後期博士課程での研究活動を通じて、太極拳は中高齢者の健康維持に有効な運動の一つであるという確信を持つことができました。

多彩な人材の集合体

健康マネジメント研究科は多彩な人材の集合体です。学部新卒者から社会人経験者、そして私のような定年退職者まで学生の年齢幅は広く、出身学部や社会人経験者の背景は多様ですが、「健康」に関心を持ち、「健康」について何らかの問題意識を持っていることは共通しています。多彩な学友たちとの議論やグループワークを通じて、私が知らなかったことをたくさん教えてもらい,たくさんの刺激を受けました。

定年後の人生テーマを見つける

私は現在、町田市内の公民館と藤沢市内の有料老人ホームで太極拳教室を毎週1回ずつ行っています。また、研究から得られた知見を還元しようと、講演活動も含めた体験教室なども精力的に行っています。こうした活動を続けているなか、太極拳仲間や教室参加者から「せっかくなのだから、研究成果を一般人向けにわかりやすくまとめてみてはどうか」と促され、『運動はこんなに健康に良い』(幻冬舎)を上梓するにいたりました。中高齢者の健康寿命延伸のヒントになればと願っています。

定年後の生き方、第二の人生は、誰にとっても大きなテーマですが、私は健康マネジメント研究科に学んだことで、それを見つけることができたと思っています。