Voices|庄田 理恵さん

がん患者さんにとっての「最善」を考えていきたい

Profile

庄田 理恵(しょうだ りえ)
【看護学専修】

2016年慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科看護学専修(CNS)修了
慶應義塾大学病院 看護師

重要なライフイベントをサポートする仕事がしたい

小さい頃から、人の人生の重要な場面で支援をする専門職になりたいと思っていました。そんな中、TVや本を通じて、自分よりも年配で人生経験も豊かな人でも、病気によって人生の選択に戸惑うこと、病気が人に与える影響の大きさを知りました。そして、病気を抱えるという重要なライフイベントや人生の選択に関わる看護師に漠然と憧れを抱き、慶應義塾大学の看護医療学部に進学しました。

臨床での、がん患者さんとの出会い

大学卒業後は、慶應義塾大学病院で婦人科病棟、消化器外科・内科病棟で8年間臨床を経験しました。どちらの病棟もがん患者さんが多く、がんが非常に身近な病気であると感じました。看護師になった当初、手術や治療により元気を取り戻して退院した患者さんが、しばらくして、がんの再発により再入院することにショックを受けていました。そして、自分はそういう方のサポートをしたかったのに、患者さんが嘆き悲しんでいる場面で、何も言葉が出てこないことがよくありました。しかし、次第に患者さんの苦痛を緩和して、患者さんが自身で最善の選択ができるように支援することが、看護師の役割だと思うようになり、それを実現するためにがん看護をより専門的に学習したいと考えるようになりました。

子宮頸がんの患者さんの研究

婦人科病棟在籍中、子宮頸がんの患者さんについて小松浩子教授と共同研究をしました。子宮頸がんに対する新しい術式として、子宮頸部のみを切り取る手術が行われるようになりました。子宮体部が残されることで、術後、妊娠と出産の可能性が残されるのですが、その手術を受けた方の妊娠・出産率が増えませんでした。そこで、支援の在り方を見直すために、その手術を受けてある程度経過した患者さんの体験についてインタビュー調査をしました。結果、子宮を残すことで女性としてのシンボルを保持したかった方や、手術を受けたことで生への感謝が生まれ、妊娠・出産に執着しなくなった方もいらっしゃり、患者さんは女性としてのアイデンティティを再構築していました。それにより、個々のニーズに応じた支援が必要であることがわかりました。

研究を通してその結果が実践に生かせることを知り、研究を継続したい、研究方法やプロセスについて学びたいと思いました。そこで、がん看護と研究について体系的に学べるよう、健康マネジメント研究科への進学を決めました。

CNSプログラムを通じて、専門看護師を目指す

健マネではがん看護分野を専攻し、がん看護専門看護師(CNS)を育成するコースで、CNSに必要な役割を遂行するための知識、技術や研究プロセスを学びました。がん患者さんの病態や治療戦略、ケア方法の学習だけではなく、患者さんが抱える全人的苦痛とは何か、患者さんが持っている力、医療者との相互作用に関する理論や、CNSとして看護チーム、医療チームと協働して問題解決していけるように、コンサルテーションや教育理論、医療倫理、さらに、がん医療全体を取り巻く医療制度や政策、今後の展望についても学習します。そして、ディスカッションを通じて、自身の臨床経験と理論を結び付けたり、価値観の多様性を学んだりしました。

また、それらの理論をベースに、病院実習を行いました。さまざまな治療過程の患者さんを受け持ち、患者さんが抱える苦痛や問題を明確にして、患者さんの最善を見極めて、患者さんや医療チームに働きかけました。実際の患者さんを取り巻く環境は複雑で、その中で問題を明確にしたり、それを言語化したり、チームに理解してもらうことの大変さと重要さも知りました。臨床に戻ってからも経験を積み重ねたいと考えています。

研究は、「乳がん外来化学療法患者の経口制吐剤服薬アドヒアランス」をテーマとしました。研究計画、倫理審査、調査、分析、論文執筆、どのプロセスも主体的に行うのは初めてでしたが、先生方が丁寧に指導してくださいました。さまざまな原因でノンアドヒアランスとなること、患者さんの状況に合わせたアドヒアランス支援の必要性を見いだすことができ、研究を通じてエビデンスに基づいたケアを構築する重要性を学べました。

看護師としての役割を改めて考えられる場所

健マネではがん看護論、CNS専門技術、ヘルスアウトカム評価、研究手法など、各領域のスペシャリストの先生方から教えを受けられます。また、看護職はもちろん医療職以外の年齢や背景もさまざまな学生とディスカッションできます。臨床を離れるのは勇気のいる決断でしたが、健マネで学び、看護師としての誇りや役割を改めて考えることができました。がんになってもその人らしい生活を見出してもらいたい、そのためには、患者を生活者として捉える看護師が絶対的に必要です。そのために、患者さんの苦痛を理解すること、緩和のために患者さんやチームにアプローチすること、その評価を実証的に探究していくことで、がん患者さんのよりよい生活に貢献していきたいです。