Voices|岩田 真幸さん
重い疾患を抱える子どもたちを、研究活動を通して支援
Profile
岩田 真幸(いわた まさゆき)
【看護学専修】
慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科 後期博士課程 在籍
大学病院の小児病棟で知った、看護の課題
私は慶應義塾大学看護医療学部を卒業後、4年間、慶應義塾大学病院の小児病棟で看護師として勤務しました。大学病院であるが故に希少疾患や希少症例の子どもへの看護を多く経験しました。その経験を通して、病気をもつ子どもたちを支援する看護実践に、実は科学的根拠が乏しいことが分かりました。具体的には、手探りで実践し、それが次の場面に生かされにくかったり、暗黙知と呼ばれる師弟相伝のように曖昧で捉えづらいものがまだまだ多いのだと思います。そこで、子どもたちや家族の体験を、研究活動によって把握することができれば、臨床の看護実践での葛藤や戸惑いが少しでも改善されるのではないかと考え、健康マネジメント研究科(以下「健マネ」)に進学することを決めました。また、慶應義塾大学のスーパーグローバル事業の一環として、ワシントン大学との交流が進められていたことも、健マネへの進学を決めた一因です。もともと留学を志望していた私にとって、短期留学が可能になるという展望は魅力的でした。
子どもたちが見せる頑張りに心を惹かれて
PICU(小児集中治療室)という、重症の子どもを治療するためのユニットがあります。日本ではまだ施設数自体が少なく、その研究も世界的に見て進んでいるとは言えない状況です。しかし、これまでの先行研究から、PICUという高度な医療管理が行われる環境で子どもは身体的にも精神的にも多大なストレスを感じ、退室後にPTSD(心的外傷後ストレス障害)のような状況に陥りやすいことが分かっています。私自身、PICUでの看護実践を経験する中で、子どもたちが過酷な経験をしていることを知りましたが、それと同時に、その過酷な状況の中でも子どもたちが見せる頑張りに心を惹かれていたこともあり、PICUをフィールドとして研究したいと考えました。
質的研究のスキルを、新しい知見のために
研究の蓄積が乏しい分野では、インタビューや参加観察によって収集したデータを分析する質的研究の必要性が高くなります。質的研究は、私が学部時代に触れ、修士論文で取り組んだ研究手法です。自らの研究スキルを活かして新しい知見が得られるのではないかという期待と共に、研究スキルをさらに向上させられるのではないかという思いがありました。
現在は、「PICUに入室した子どもへの看護支援に関する研究」として、入室した子どもの精神的健康状態に影響する要因に関する文献レビューを行っています。今後はインタビューやフィールドワークといった質的研究方法と、質問紙による量的研究方法を同時に使用するMixed-methodsを用いて、子どもたちの"頑張り"や、それを支えるものについて探索的に研究したいと考えています。
留学で世界の状況を知り、日本の状況を再認識
質的研究を体系的に学べる、健マネの強み
現在、医療分野での研究手法の主流は、統計処理を用いた量的研究だと思います。実際に、Big data時代を迎えてもいます。しかし、人間の行動や感情には、統計だけでは知り尽くせないものがあり、人文社会学的なアプローチによって、人間の行動や情動、主観的な体験を深く理解することの必要性も高いと考えています。健マネでは、多種多様な講義や演習を通して統計に関する理解を深めるとともに、人文社会学的なアプローチとしての質的研究法も学ぶことができます。他の大学院の院生の話を聞くと、体系的に質的研究法を学べる大学院は限られており、そのような学びを得ることができることは健マネの強みだと思います。
また、様々なバックグラウンドを持つ異業種・異世代の人たちとフランクな関係を築けることも、健マネの大きな魅力です。私は修士時代の同期と今でもつながりがあり、それぞれの分野で活躍する知らせから刺激を受けています。そういう意味で健マネは、新しい仲間との出会いの場でもあると思います。
視野は広く保ち、物事は深く探究する
それぞれの目標へ向け、履修内容や研究テーマは変わると思いますが、一本の芯を持つと同時に、限界や知的好奇心に応じて柔軟に物事を受け入れて適応することも大学院生活では重要だと思います。健マネには、様々な選択肢が用意されています。「視野は広く保ち、物事は深く探究する」姿勢を大切に、様々な選択肢に出会っていくことで、それまでのバックグラウンド以上の新しい知識や価値観を養うことができるのではないかと思います。
ワシントン大学への短期留学では、Visiting Graduate Students Certificate of Attendanceという修了証をいただくことができましたが、これで終わりにするのではなく、今後もこの留学中に得た学びと交流を活かしながら、学習・研究活動を続けていきたいです。しかしその一方で、学習・研究活動を通して、あらためて研究手法や研究自体の奥深さ・難しさを感じています。まずは博士号の取得が第一目標ですが、その後はポストドクター(博士研究員)への進学も視野に入れながら、さらに研究についての学びを深め、臨床実践の質を向上させる研究が行なえるようになりたいと考えています。
(インタビュー2018年4月)