Voices|ケニヨン 充子さん

Evidence-Based Nursingのために一歩ずつ

Profile

ケニヨン 充子(けによん みちこ)

2009年 慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科 修士課程看護学専修 修了
2012年 同研究科後期博士課程修了(博士(看護学))
共立女子大学看護学部准教授
【看護学専修】

ディスカッションの輪に入りたくて大学院進学を決意

私は助産師として働いていたのですが、当時は重症事例を立て続けに経験しストレスが多い日々を過ごしていました。同僚からは「おはらいをしてもらったほうが、いいんじゃないの」と言われたくらいでした。癒しを求めてアロママッサージに通い、自分でも妊婦さんにアロマオイルで足のマッサージをしてあげたりしたのですが、想定外の効果を実感し、思い切って助産師をやめて、アロマテラピーの資格を取ろうかと真剣に考えました。その話を聞きつけた恩師が怒鳴り込んできて、「履歴書をもって研究室に来なさい」と一喝されました。その翌年度から助手として教育の世界に足を踏み入れることなりました。大学での生活は充実しており、特に先生たちとのディスカッションから大いに知的刺激を受けました。同時に、自身の知識不足を痛感し、「この輪に入りたい」という思いが日増しに強くなりました。将来、このまま教育・研究の世界でやっていきたいという気持ちも芽生えて、大学院進学を決めました。健康マネジメント研究科を志望したのは、専門知識を深めるのと同時に視野も広げたいと考えたからです。

徹底的に学んだ分析手法科目

大学院進学にあたって意識したのが実証研究でした。しっかりエビデンスをとる、そのために必要な手法、データ収集と解析の手法をしっかり身につけたいと考えていました。健康マネジメント研究科は分析手法科目が充実しており、積極的に履修し、果敢に課題に取り組みました。修士課程と後期博士課程の計5年間在籍しましたが、十分に理解できていないと感じた科目は何度も履修しました。5回受講した科目もあります。

とにかくデータを採ってみる

私は「産褥早期における背部マッサージのリラクセーション効果に関する研究」に取り組んだのですが、客観的指標で評価することにこだわって研究を進めました。介入研究だったので、100人を超える女性をマッサージしました。ある日、発表会で研究方法の説明を行っていた際、データを採るなら起き抜け状態が最も適しているのではないか、というアドバイスを受けました。「えっ」と思いましたが、「やるしかない」と腹をくくって、毎日4時に起きて病院に通いました。後日、文献を調べ直していたら、私の研究では、起き抜け状態でデータを採ることには意味がないことがわかりました。準備不足を痛感しつつ、やってみたからこそ、読み流していた文献にも反応できたのだとも感じました。研究者としての貴重な経験でした。

戦友と乗り切った危機

後期博士課程在籍時に、研究活動の孤独さを知り、学位取得への重圧を感じ、独りキャレルで悶々とした日々を送っていました。ストレスをため込み過ぎたのだと思うのですが、とうとう胃けいれんを起こしていまいました。退学という言葉が脳裏をよぎりましたが、誰もが経験する壁であることを知り、先輩や同期生と一緒に自主ゼミを始めました。皆で苦境を乗り切ることを目的に結成した自主ゼミでしたが、思わぬ副産物も得られました。投稿論文で苦戦していた先輩が無謀とも思える受賞予告宣言を行い、本当に学会から賞を授与されたのです。これに触発されて、私も受賞予告宣言を敢行し、見事に実現することができました。苦境を乗り越えられただけでなく、栄光まで勝ち取れたので、戦友の大切さが身に染みました。なお、この自主ゼミ活動は現在でも続けています。

予期せず身につけた伝える技術

現在は大学で看護師養成の仕事に就いていますが、授業や実習では、初学や理解不足の学生含め、誰でもわかるように説明することを心がけています。言葉選びにも注意を払っています。これは健康マネジメント研究科で学んだことです。私はもともとはプレゼンテーションの類は苦手だったのですが、大学院では、問答無用で何度も発表の場にさらされました。健康マネジメント研究科に集まる教員と学生は多様なので、専門外の人にもしっかり伝えなければなりません。苦行ではありましたが、「伝わる」ことの難しさと大切さを学ぶことができたと思っています。