Voices|齋藤 義信特任講師

身体活動促進の取り組みを通じて地域の健康づくりを支える

Profile

齋藤 義信(さいとう よしのぶ)
慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科・特任講師
【スポーツマネジメント専修】【公衆衛生プログラム】

2003年、日本体育大学大学院体育科学研究科博士前期課程修了。2014年、慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科後期博士課程修了。博士(健康マネジメント学)。2003年~2016年、公益財団法人藤沢市保健医療財団の健康運動指導士として、身体活動・運動を中心とした健康づくり事業や研究に従事。2016年より、現職。慶應義塾大学スポーツ医学研究センター兼担所員。

会社に勤めながら、後期博士課程に進学

2003年、日本体育大学大学院の博士前期課程修了後、藤沢市保健医療財団に入社し、以降、健康運動指導士として身体活動・運動を中心とした個別健康支援に携わってきました。多くの方の健康づくりのお手伝いをする中で、健康づくりの行動を改善・継続するために、どのような支援ができるかを考えてきました。入社から5年経過したとき、健康マネジメント研究科(以下、健マネ)が職場と同じ藤沢市にあることを知り、後期博士課程でより深く学び、住民の皆さんに還元できるような研究をしたいと思い、職場の理解も得て、フルタイムの勤務を続けながら通いました。

体を動かすには、社会環境も重要

後期博士課程では、故大西祥平先生や小熊祐子先生に指導教員となっていただき、「身体活動と近隣環境との関連」について、これまで行ってきた個別支援だけでなく、地域全体の社会環境にも配慮したポピュレーションアプローチの観点から研究を行いました。その中で、藤沢市との共同研究として市民約4,200名にアンケート調査を行った結果、身体活動(運動・スポーツ、余暇時間のウォーキング、移動時の歩行)が高い人は、近隣環境の認知が良いことが明らかになりました。

具体的には、余暇時間に行うウォーキングは、近所で運動している人を見かけることや景観が良いことが関連し、移動時の歩行は、歩きやすい歩道があることや近所にスーパーや商店などがあることが関連していることが分かったのです。この研究により、地域社会環境を考慮した身体活動促進の取り組みを進める基盤ができました。

「ふじさわプラス・テン」の取り組みを展開

博士課程での研究をもとに、藤沢市に提案する形で2013年から2年間、 健康上特に課題のあった4地区を対象に「身体活動促進のためのコミュニティワイドキャンペーン」を実施しました。このキャンペーンは、健マネと藤沢市健康増進課や藤沢市保健医療財団との共同プロジェクトで、主な対象を60歳以上の高齢者の方に設定して行いました。
2013年3月に厚生労働省から出された身体活動指針(アクティブガイド)の主旨に則り、「ふじさわプラス・テン(普段より10分多く、毎日、身体を動かすこと)」を合言葉に、①情報提供(藤沢市内のきれいな景観を掲載したアクティブガイド藤沢市版の配布など)、②教育機会(地域の自治会やサークルに出向いて行う健康ワンポイント講座など)、③コミュニティの形成促進(身近な場所で自主的に運動を行うためのサポートなど)を実施しました。これまでの研究と同じように、2年間では地域全体の身体活動量の増加には至らなかったものの、行動を起こすためのきっかけとなるアクティブガイドの認知度や知識の増加が認められています。この取り組みは、2015年度以降、藤沢市内全域で広く展開しています。

2014年12月からは、日本医療研究開発機構から助成を受け、研究代表者である小熊先生や健マネのOB・OG、学生の皆さんと一緒に、認知症予防にも焦点を当てたプロジェクトとして継続して取り組んでいます。現在は、このプロジェクトの中で制作した「ふじさわプラス・テン体操」をツールのひとつとして、老人クラブやサークルといった地域コミュニティを活性化し、さらに地域全体を活動的にしていくための仕組みづくりについて検討しています。

プラス・テン体操は、柔軟性運動、有酸素性運動、筋力増強運動、バランス運動の4種類で構成された運動プログラムで、馴染みの童謡に合わせて10分間で実施できるものです。この体操を行っている皆さんからは、「身体が柔らかくなった」、「片足立ちで立てる時間が長くなった」、「肩こりがなくなった」、「性格が明るくなった」、「笑顔が増えた」などの嬉しい声が多数聞かれ、近所の皆さんにもプラス・テン体操を勧めたいという広がりが出てきています。

活動を共にする仲間を募集中

身体活動が不足すると、喫煙と同じくらい健康上のリスクが高まります。つまり、身体活動を高められれば、健康寿命が延びるともいえます。しかし、地域全体を活動的にしていくための科学的知見は十分ではなく、プロセスも含めた評価を行っていくことが重要です。藤沢市の人口は42万人強で、そのうち、65歳以上の高齢者は23.5%です(2016年4月1日現在)。今後も取り組みを継続しながら、藤沢市と同じような地域でも応用可能なモデルの構築を目指していきたいと考えています。

健マネの先生方は、研究として科学的な知見を創出するだけでなく、実践の場を持ち、社会に役立つ方法を検討しています。実際に現場に行ってデータを収集することや、住民の皆さんと触れ合う機会は学生にとって貴重な体験です。このような経験は、社会に出たときに必ず生かされます。私たちと一緒に現場に足を運び、より良い社会の実現に向けて活動してくださる方を心よりお待ちしています。