Voices|小熊 祐子准教授

マネジメント能力やリーダーシップなどの現場力は、実践の場でこそ培われる

Profile

小熊 祐子(おぐま ゆうこ)

慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科・スポーツ医学研究センター准教授
【スポーツマネジメント専修】【公衆衛生プログラム】

1991年慶應義塾大学医学部卒。同医学部内科助手、スポーツ医学研究センター助手を経て、2005年より同職(兼スポーツ医学研究センター准教授)。医学博士。公衆衛生学修士(ハーバード公衆衛生大学院2002年卒)。
2013年より、ふじさわ プラス・テンの活動(「プラス・テン:普段より10分多く毎日カラダを動かすこと」を藤沢市で展開しているもの)に参画している。
ふじさわプラス・テン

臨床医から、予防医学の分野へ

医師になったのは、世の中の人を救いたい、世の中の役に立ちたいという漠然とした思いからでした。医学部卒業後は産婦人科医への道も考えたのですが、当時から食事や運動に興味があり内科へ、そしてその中でも特に生活習慣と関連の深い腎臓内分泌代謝科へ進みました。大学病院や出張病院で内科医として、糖尿病や肥満症などの生活習慣病の患者さん、特に重症化し多くの合併症をかかえている患者さんを診ているうちに、「もっと予防に力を入れたい」という思いが強まりました。機会に恵まれ、ハーバード公衆衛生大学院でI-Min Lee先生の元で勉強しながら、1年間はMaster of Public Healthコースで学べたのは幸運でした。今でもこの時の経験は大変役に立っています。

女性が多い健康マネジメント研究科

健康マネジメント研究科(以下、健マネ)には、看護学、医療マネジメント、スポーツマネジメントの3つの専修があります。中でも看護学専修に所属している学生の大半は女性です。卒業後、プロジェクトに関わってくれているメンバーの中にも女性はたくさんいます。個々の時間配分に合わせて、中には会社を経営されながら、お子さんを育てながら、研究を続けている方もいらっしゃいます。大学院進学はライフステージに応じた位置づけができるという意味で、女性にも向いていると思います。私も2児の母です。子どもを持つまでは、何事も努力をすればそれだけ成果につながると思っていましたが、子どもが生まれてからは、自分にできることを可能な範囲でやっていく、効率をより考えるようになりました。

「ふじさわプラス・テン」プロジェクトの展開

2013年から始まった「ふじさわプラス・テン」は、健マネと藤沢市健康増進課や藤沢市保健医療財団等との共同プロジェクトです。2013年3月に厚生労働省から出された身体活動指針(アクティブガイド)の主旨に則り、2015年3月までは、健康上特に課題のあった4地区に焦点をあて、身体活動促進キャンペーンとして、特に60歳以上の高齢者の方向けに行ってきました。現在も日本医療研究開発機構から助成を受けて「プラス・テン(普段より10分多く、毎日、身体を動かすこと)」を合言葉に、藤沢市内で広く展開しています。このプロジェクトでは身体活動促進のための運動プログラムのひとつとして、ふじさわプラス・テン体操を制作したり、効果的な情報提供の方法を検討したりしています。腎臓内分泌代謝内科での患者さんへの食事指導や運動指導の経験も活かし、かつ、公衆衛生の視点で、地域全体に活動を展開していくための方策を考えています。

運動は少しずつでも実践すれば効果があるので、最初から高い目標を設定するのではなく、「まずは10分でいいので歩いてみましょう。」、「テレビを見ている間、ずっとじっとしていないで立ち座りをしましょう。」など、その人の状況に応じてアドバイスしていく必要があります。

高齢者の活動量を増やすことが、認知症予防にもなる

今、日本医療研究開発機構から助成を受けて行っている研究では、地域の高齢者の方々の「認知症予防」という目的があります。だからといって、何か特殊なことだけを行うのではなく、まずは、身体活動を増やすことを基本に、地域の方々に実践していただいています。認知症予防という意味では、"あたまも使いながらからだを動かす(dual task)ことも勧めています。

最近では、「プラス・テン体操を行うようになってから、身体が柔らかくなった」、「肩こりがなくなった」、「性格が明るくなった」、「笑顔が増えた」など嬉しい声が聞かれるようになりました。私も、乗り物に乗らずに駅まで歩く(時に走る)、家で何かをやりながら隙間の時間にストレッチをするなど、日常生活の中での「プラス・テン」の実践を心掛けています。

健康マネジメント研究科に来てほしい学生像

健マネでは、「スポーツマネジメント専修」の専任教員をしています。「ふじさわプラス・テン」の活動のように、公衆衛生関係の活動に多く携わっています。

実践的な研究ができるフィールドがあることはとても貴重なので、やる気のある方には積極的に参加していただきたいと思います。実際に参加してみないと分からないこともありますが、様々な経験や授業で学ぶことがたくさんあります。データ解析のスキルや科学的思考を授業で身に着けるとともに、実践力を備える必要があります。現場での活動を億劫がらずにできる人、つまり人に対して興味があって、人と関わることが好きな方が、健マネで分析力を身につけ、実践にかかわることで力がつくと期待しています。今後の課題は、研究成果をきちんと世の中に発信する流れを作っていくことです。自分たちのポテンシャルを信じて、さらに成長していけることを願っています。